2015年11月17日火曜日

11/15(日) 小林啓子 湘南Special Live 2015 「この先の歌へ」(鎌倉欧林洞)

ケーキ屋さんの2階にあるこのホールはかつてのニュー・ミュージック系アーチストに妙に人気が高いようで僕自身、今年2度目の訪問。
啓子ちゃんのコンサートに伺うのは多分、4度目で、1回目はなんと、彼女が21歳の頃だ。
1970~71年頃か?
2度目、3度目はソレからグッと下って2003年頃だから歌声も表現力もまるで変わっていた。
結婚生活で30年ほど歌わずにいた時期があるらしい。
とにかく彼女の歌を聴くのは久しぶりなので楽しみに出かけていったのだ。
ステージはいたってシンプルでキーボードの山口玉三郎さんと啓子ちゃんだけ。
このステージにはシンプルな方が合うかもね。
①winter light
1曲目は明るいカントリー娘だったリンダ・ロンシュタットのシットリとしたナンバーを原語で。
②雨に濡れた朝
昨日のパリでの自爆事件に触れつつの選曲。
イスラム教に改宗してユスフ・イスラムとなってから各国で入国拒否に遇ってライヴも開けない旧芸名キャット・スティーブンスの大ヒットソング。
僕は今でも彼が好きだ。
ちなみに啓子ちゃんの息子さん(「BONINGEN」vocal)も同時刻にライヴ中だったそうで「すぐにホテルに戻れ」の命令でライヴは中止になったとか。
スタッフには死傷者も出たらしいという語りに遠い異国の出来事、他人事ではないことを実感。
 
③さよならcolor
5人組ファンクバンドSuper Butter Dogの2001年のヒット。2005年、竹中直人監督で同名の映画も生まれた。
SBDのヴォーカル永積タカシはSBD解散後、ソロユニット「ハナレグミ」として活躍。こちらの名で知る人も多いのか、太田裕美ちゃんのコンサートでも「ハナレグミ」のヒットとして歌われた。
④ボクサー
サイモン&ガーファンクルのヒット曲のひとつ。
「ライ・ラ・ライ・ララララ・ライ・ラ・ライ」(嘘で嘘で嘘で嘘で)のリフレインに切なさややるせなさが籠められて良い歌唱。
ブレッド&バターの岩沢幸矢さんが本日のゲスト。
小室等さんと並ぶ東の長老。
「湘南サウンド」などと言われたがデビュー曲は何故か『傷だらけの軽井沢』。
最初は歌謡曲だと思っていたので『走れ!歌謡曲』で時々、選曲した。次の『マリエ』でフォークグループだったのか、と認識した覚えがある。
⑤愛したい 信じたい
岩谷時子さん作詞のメッセージソングを二人で。
 
⑥風
ブレッド&バターの曲の中ではこれが好き、と啓子ちゃん。
⑦虹の彼方に
二人で『オズの魔法使い』から。
最近ではゲイの歌として再評価されている息の長いスタンダード・ナンバー。
微笑ましいデュエットソングになった。
啓子ちゃんの休憩。幸矢さんのソロで。
⑧江の電の歌
正式タイトルは知らない。
何度か繰り返される「welcome back home」に夕景色の中を走る江の電の感じが上手く捉えられている。
⑨アロハ・カガヒアカ
幸矢さんはハワイが好きらしい。
kuro-sanもこの歌、きっと好きになる。
再び小林啓子、休憩を終えて。
⑩比叡おろし
僕がこの歌を知ったのは小室等さんのコンサートから。
これを歌うとその日の自分の調子が判るから、と70年当時の小室さんは大抵ライヴでこれを歌っていて、1枚目のソロ・アルバムにも入れている。
啓子ちゃんはこれを70年にシングル発売していてB面がNHK『ステージ101』からの『恋人中心世界』。
『101』組では小原初美ちゃんもレコーディングしていて発売は三人ともKING Recordsから。
この歌は前半が「~したそうな」という伝聞口調の客観描写、サビから「ウチは比叡おろしですねん」と一人称になる面白い構成。
啓子ちゃんはサビからを大仰なほどの表現で「比叡おろし」の冷たさを際立たせた。
演劇的で楽しい試みだと思った。
⑪私の孤独
仏語でジョルジュ・ムスタキの『マ・ソリチュード』を。
仏語の先生からそろそろ披露しても良いと言われたそうで、なるほど、らしい(失礼)発音。
ムスタキ。懐かしかった。
⑫スライダーを覚えて
世界的デザイナーのヨージ・ヤマモトが歌手だったとは知らなんだ。
啓子ちゃんが出逢った時、まだヨージは小さなブティックを持ったばかり。
彼から貰ったレコードの中でこの曲が気に入り、いつも口ずさんでいたら息子さんがこの歌を子守唄がわりに覚えてしまったらしい。
今では腰まで伸ばした髪を振り乱して歌う息子さんは「この歌が僕の原点」と言っているそうな。
野球のテクをひとつずつ覚えて行く少年の姿は普遍的で説得力がある。
啓子ちゃんはこの春発売したアルバムでBONINGEN君のアレンジでこれをカバーした。
さぞかし感無量だったことだろう。
⑬嘲笑
北野武作詞、玉置浩司作曲。
不思議にもセンチメンタルになれる佳曲。
これも『この先の歌へ』に入っている。
つまり新アルバムはなかなか興味深い選曲なんだ。
⑭サン・フランシスコ・ベイ・ブルース
ラストは英語で。
アンコール曲代わりのオーラスは、元々、スティービー・ワンダーがブレッド&バターに書き下ろしたらしい『I Just Called To Say I Love You』を客も交えて大合唱。
⑮I Just Called To Say I Love You
しかし、日本語タイトル『心の愛』で知られるこの歌はブレッド&バターで発売されることはなかった。
スティービー・ワンダー、人に上げるには良い歌過ぎて惜しくなったらしく、返してくれと言い出したらしい。
結局、この歌はスティービー自身の歌でレコーディングされ、映画『ウーマン・イン・レッド』の主題歌として大ヒット。
1984年にビルボード誌No.1を記録し、アカデミー賞では歌曲賞を獲得した。
幸矢さんは多くを語らなかったが実際にはレコーディングも済ませ発売間近だったらしい。
日本語詞は呉田軽穂ことユーミン。
あとから別の作品をくれたらしいが、そりゃちょっと約束が違うよスティービー、って話じゃないかしらね。
ライヴはこの曲をもって有無を言わせず終了。
ウン、ダラダラとアンコールに応えるより、僕もこの方が好きだな。
全体を通して、良い仕上がりのライヴじゃなかったでしょうか。
啓子ちゃんの語りは後半に歌う歌の前振りを2~3曲目でしちゃったり、おっちょこちょい全開なんだけど、玉三郎さんが勘良く交ぜっかえすので大きな失敗にならずに済んでいる。
玉三郎さんの笑いに変換する手際が絶妙で二人の息が合っているのが良くわかる。
しかも啓子ちゃんの話が思いの外、含蓄に富んでいてフムフムとうなずける要素が多いのだ。
息子とヨージの話はちょっと泣きそうになっちゃったな。
声は若い時よりずっと太く深くなっていて、高音は以前より伸びが良い。
日頃の訓練を欠かしてないのは何故か『101』の人達に共通していて、年齢なりの実りを見せているのは立派だと思う。
なごやかな空気に包まれた質の良いライヴというのが今回の印象で、心地よい気分で鎌倉をあとにした僕でした。

写真は
①小林啓子 新アルバム『生きるものの歌 この先の歌へ』
②シング・アウトのドラマー、ドンちゃんと啓子ちゃん
③このひどい写真はドンちゃんの撮影






2015年11月14日土曜日

11/3(火) 神奈川芸術劇場『21世紀の上を向いて歩こう

今日は横浜中華街から間近い「神奈川芸術劇場」に来ている。
『21世紀の上を向いて歩こう』というコンサートでLittle Glee Monster という上手いと評判の少女6人組が『涙をこえて』を歌ってくれる。
このコンサートのために詞の一部を書き換えタイトルも『涙をこえて~Re-born』となった。
大友良英スペシャルバンド、二階堂和美、福原美穂さんなど4組が中村八大さんの作品集を演る。
この頃、八大さんの作品を見直す機運が高まっているのか、この10日で2回聞くことになった。
『夢で逢いましょう』で発表した以外の楽曲も沢山ある八大さん。
プロデューサーは『こんにちは赤ちゃん』の赤ちゃんその人である中村力丸さんである。
アッと驚く選曲を期待しているが、さて…。

大友さんはご存じ『あまちゃん』のテーマ音楽で知られた作曲家だが元はフリージャズの作曲家、ギタリストとして知る人ぞ知るアーチストだ。
東南アジア各国で映画音楽家としても知られていたらしい。
山下毅雄さんや八大さん、そしていずみたくさんやクレイジーキャッツの音楽も好きだったとwikipediaにあるのでテレビっ子だったのかもしれない。
オープニングは本領発揮のフリージャズで
①21世紀の「上を向いて歩こう」(大友良英スペシャルバンド)
先行きがどうなるのか全く読めないオープニング。
なんかウキウキしてくる。
しかし、2曲目からは永六輔作詞・中村八大作曲の『今月の歌』が大きな売り物だったバラエティ番組『夢であいましょう』から
②夢で逢いましょう(二階堂和美)
③あの娘の名前は何てんかな(二階堂和美)
が順当に選曲されている。
「あの娘の名前は…」は九ちゃんによるコミックソングで『夢あい』の出演者、中島弘子、坂本スミ子、黒柳徹子や、渡辺プロの美佐社長、九ちゃん所属のマナセプロの社長や、田代みどり、森山加代子などとにかく当時の少年少女たちがみんな知ってる名前をいろいろ呼びかけるが返事がない。なんと「あの娘」はマネキンだったのサ、という落ちがつくナンセンスソングなんだけど、ちゃんと作品になっているところにこの歌が愛された理由がある。
しかし、丸山明宏さんが歌ったという次の歌は記憶から完全に欠け落ちていた。
④誰に(二階堂和美)
曲は『Take 5』にクリソツ。
ちゃんとスタジオ写真にも丸山さんが映ってるから間違いないのだが、この歌に全く記憶がない。
面白かった。
面白いと言えばMCは大友さんがつとめているのだが、これが抜群の上手さ。
流暢なのでなく、放っておくと止めどなく続いてしまいそうな、と言って饒舌とも違う、笑いの勘所をしっかり抑えた奔放さなのでほぼ満席の客席からは笑い声と共に拍手も起きる。
思わず笑っちゃう、どこか愛らしいエピソードが混じったりする。
さて、次に登場したのは平均年齢16歳の「最強歌少女」たち、Little Glee Monster。
まずは挨拶がわりの1曲がなんとアカペラによる
⑤yesterday(Little Glee Monster)
と来たもんだ!
イヤー、驚いた。ホントに上手いんだもの。
⑥君が好き(Little Glee Monster)
⑦涙をこえて(Little Glee Monster)
「学校の音楽コンクールで2年前に歌った」とか言いながら歌ってくれたので嬉しくなっちゃった。
そして、ラストもアカペラで
⑧遠くへ行きたい(Little Glee Monster)
ま、見事なハーモニーです。
嫌みのない歌唱ですんなり心に届いてきました。
3人目のシンガー、福原美穂さんはなんとレゲエのアレンジで、北島三郎さんの名曲
⑨帰ろかな(福原美穂)
を。
続いては江利チエミさんの
⑩私だけのあなた(福原美穂)
を。
実はこの歌もまったく耳馴染みがないが、なんとも切ない恋歌。福原さんの歌唱が冴える。
そして、ついに
⑪上を向いて歩こう(福原美穂)
なのだが、オノヨーコの英詞で披露。
試みは面白いのだけど聴き手はちょっと落ち着かなかったと思う。
オリジナルは水原弘のB面ソングだがちあきなおみのカバーヴァージョンが知られる
⑫黄昏のビギン(二階堂和美)
は、どうも2コーラス目を八大さんが作詞したらしい。
映画の中で使うため元は1コーラスしかなかったので、レコード用に八大さんがどうも書き足してしまったらしい。
道理で永さんは「作曲は天才だけど作詞家としては三流」なんて言ったりする。
ウン、僕にも八大さんが詞を書き足した作品があるんだけど、それがテレビやラジオで流れている時、上を向いて歩けなかった。
次は
⑬笑点のテーマ(大友良英スペシャルバンド+二階堂和美)
で二階堂さんが「パフッ」を担当。見事に決めました。
そして、これだけが青島幸男作詞となる
⑭明日があるさ(全員)
とにかく明るくなれるのが良いね♪
オーラスは八大さんの作詞、作曲、歌、という異色作を大友さんのソロ、出演者全員のコーラスで
⑮太陽と土と水を(大友良英)
合歓ポピュラーフェスティバルで地元の子供たちを従えた八大さんのこの作品は商業的意図をまったく排除したシンプルで美しい歌だった。
フェスティバルでは特別賞を受賞したのだったと記憶する。
レコードは持っているので一度番組で掛けてみたい。
今でもこの歌の持つメッセージ性とシンプルな美しさの価値は変わっていないと思うし、むしろ今の方が素直に人の心に届くかもしれない。
さすが八大さんのファンを自認する大友さん、思わぬ佳曲を選曲したものだ。
感心した。
そしてアンコールは、初めてオリジナル曲に近いアレンジで
⑯上を向いて歩こう(アンコール/全員)
ホッとしてThe End。
まことに心地よいコンサートでした。
写真はポスターと出演者達。
真ん中左が福原さん、右が二階堂さん、それを囲んでLittle glee Monster。



11/4(水) 月蝕歌劇団「新撰組 in 1944-ナチス少年合唱団-」(ザムザ阿佐ヶ谷)


美少女演劇(暗黒版宝塚の異名もある)で知られる月蝕歌劇団を見た。
主宰者で作・演出の高取英さんとは1980年頃からの知り合いなのだがその作品を見るのは初めてなんである。
高取さんの芝居に安達明の『女学生』という歌を用意した、ということだけの付き合いなのに恩着せがましくFB上で友達関係になったというのが今年のこと。
月蝕歌劇団は今年結成30年で今月末にはWOWOWでドキュメントが放送になるのでその前にちゃんと見とかなきゃ、と重い腰をあげたのだ。
1985年旗揚げだから、考えてみると高取さんとは劇団結成より前の付き合いになる。
僕が音源を用意できたのは少なくともキー局のパーソナリティ時代しかあり得ないので80年か81年、演劇団での公演『月蝕歌劇団』か次の『聖ミカエラ学園漂流記』辺りのことだ。
演劇団公演『月夜とオルガン』(作・北村想)の宣伝担当をしていた頃かも知れない。
『新撰組 in 1944』については演劇ジャーナリストの山田勝仁さんが書いてらして、それがとても素敵な劇評にもなっているのでお読みいただきたい。
奇想天外な新撰組とナチスとの出会いが「思いこそが現実を変える」「理想を語らねば世界は滅びる」ことを示唆していて興味深い。
ワクワクハラハラしながらその骨太な劇世界に飲み込まれて行く。
感動的で心地よい体験だ。
舞台最後は字幕で処理される。
土方は薬売りの行商に戻るのだが、歴史上では明治時代を牽引した人物たちが次々に暗殺される。
おそらくは土方の仕事だ。
そして、土方は五稜郭で弊れなかった。
彼は内戦に勝利し、共和国構想を実現する。
思いの深さが歴史を超えて行く。
ロマンチシズム溢れる感動的なラストだ。
出演者の大半は美しい女優たちだが、美しい人を見ているのはやっぱり気持ちいいな。
新撰組を女性が演じるわけだが思いの外、発声は気にならない。
宝塚的発声だと疲れるな、と余計な心配をしていたが杞憂で、土方歳三役の倉敷あみ、ゲッペルス役の白川沙夜にクラッときた。
つまり、主要キャストたちはそんな風にカッコいい。
新大久保鷹さんをはじめとする男性キャストも要所をビシッと決めてイカしているのだが、吉田松陰の怨霊を好演する俳優だけが小汚ない。
実はこれが漫画家の田村信さんで、この劇団が大好きで近年の公演にはほとんど客演しているらしい。
「おれ、田村だからあだ名がたむたむでかぜさんと同じなんだよ」
と挨拶してくれた。番組をいつも聞いててくれてたらしい。
これも長生きの得みたいなものですね。
高取さんが美女揃いの出演者たちに「この人が伝説のディスクジョッキー」と紹介してくれたが彼女たちの反応は「ディスクジョッキーって何? 仕事?」
思わず吹いた。
月蝕歌劇団の公演には「詩劇ライヴ」が必ず付随しているらしい。
懐かしのメロディ数曲とこれまでの公演で歌われた劇中歌なのか、馴染みはないが刺激的な歌が披露される。
音楽はJ.A.シーザー作品なのか曲調にある流れが聞き取れ、いつの間にか気持ち良くなる。
既にCDデビューしている人もいるので水準は高い。
前述の山田勝仁さんも今日はライヴだけを聞きにこられて久しぶりの再会。
しかし、僕はこのところ絶好調だったものだから少し自分を過信していた。
ちょっと段差の高い階段の2段目でバランスを崩して落っこちて、したたか腰を打った。
運良く後ろで山田さんが支えてくれたので助かったが、家に戻ったら腰と首が痛く、明日のリハビリ教室に行けるかどうか微妙なところ。
油断は禁物だね。
写真は田村さん、高取さん、僕。
集合写真には美女軍団+高取さん、山田さんも。
山田さんはフットワーク軽く紀伊国屋劇場へ。
僕は高取さんと喫茶店で長話してしまいました。
高取さん、またきっとうかがいます♪
ちなみにWOWOWは「ノンフィクションW」枠で
11/21(土) 午後1:00~/ 11/23(月・祝) 深夜2:10~ の2回放送。多分、12月にもあると思います。
タイトルは
『暗黒のアイドル、寺山修司の彼方へ。「月蝕歌劇団」30年の挑戦』