2018年3月19日月曜日


「人生はつらすぎる」

1987年5月2日、僕の愛したフランスの女性歌手ダリダはそう書き残して亡くなった。54歳だった。
1956年23歳でデビューした彼女のレコードは、日本では長いこと発売されなかった。デビュー曲でもある『バンビーノ』も、続くヒット『ゴンドリエ』も、アメリカン。ポップスのカバー『ラスト・ダンスは私に』も…。
彼女の所属するバークレー・レコードにはシャルル・アズナブールもいたが、日本のレコード会社と契約がなかったため、この大歌手もまた日本では紹介されることがなかった。
バークレーがやがて朝日ソノラマと契約し、野球解説者佐々木伸也さんのDJ番組『ソノラマ・ジョッキー』が始まったことで1962年ころからやっとラジオでダリダとアズナブールの名を知ることになるのだが、その頃のダリダはもうカバー専門の歌手と言ってもイイほどで、日本で大ヒットしたアラン・ドロンとのデュエット曲『あまい囁き』すらイタリアの人気歌手ミーナとアルベルト・ルーポのカバー・バージョンなのだ。
とは言っても、彼女のフランスにおける人気は疑いようもなく、ついにこの5月、『ダリダ~あまい囁き』という映画が日本でも公開になるらしい。
何故か恋人が次々に自殺してしまい、彼女もまた後追いを計っては生還してしまう人生だった。
「人生は辛すぎる」と彼女に言わせたその一生がどんな風に描かれるのか、公開を待ちたいと思う。

それに先駆けて3/25(日)の「かぜ耕士博覧会」では「映画になったスター達」を語ってみようと思う。

ピアニストエデイ・デューチンの恋を描いてラブ・ロマンスの傑作と言われる『愛情物語』。主題曲『トゥ・ラブ・アゲイン』が大ヒットした。
ジャズ・バンドの隆盛期を描いた『ベニー・グドマン物語』『グレン・ミラー物語』も名曲の数々が捨てがたい。

となるとジャズ歌手フランク・シナトラ関連映画も気になるが『ゴッド・ファーザー』に描かれたマフィアとのつながり程度のエピソードしか出ないかも知れない。
シナトラから女を紹介される度、律儀に全部寝ていたのが「JFK」ことケネディ大統領。
マフィアとの関係を疑われて慌ててシナトラと手を切ったため、ケネディ暗殺は最初シナトラの逆恨みによる犯行を疑われ、シナトラは容疑者のひとりだったほどだ。
ケネディ暗殺の全容に迫ろうと奮闘する男達を描いた『JFK』。
人気と評判の割には大統領としての実績はあまり残さなかったこの男を伝説の大統領とするため、静かに奔走する彼の妻を描いたのが『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』。
そのJFKに劣等感を抱き続けた大統領を本人とは似ても似つかぬ風貌のまま、堂々と演じきり、何故か本人になりきってしまったアンソニー・ホプキンスの名演が光る『ニクソン』。
『JFK』も『ニクソン』もアメリカを追い続ける監督オリバー・ストーンの秀作だが、大統領三部作に加えたい彼の傑作に『ブッシュ』もある。原題は『W.』。息子の方を描いていて捨てがたい面白さ。

ハリウッド帝国から小国モナコの王妃となったグレース・ケリー。
彼女もまた幸せな一生を送ったとは言いがたかった。
世紀の金髪美女をニコール・キッドマンが演じる『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』。
そのグレース・ケリーに嫁いだあとも映画出演の要請をし続けるしつこい監督アルフレッド・ヒッチコック監督。
金髪への異常なほどの執着と才能ある妻への嫌悪。ヒッチコッキアン達にそっぽを向かれた『ヒッチコック』。アンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンというイギリスの名優同士が夫婦を演じたこれまた面白映画。
けれど、ファースト・レディというならマドンナとアントニオ・バンデラスが魅せたアルゼンチンのペロン首相夫人『エビータ』も興味深い。

「ザ・ヴォイス」ことフランク・シナトラに自作を歌ってもらったことでただのアイドル小僧から大歌手になって行ったクロード・フランソワ。フランス映画最大の制作費をかけたという豪華一代記の主役は「フランスのプレスリー」ことジョニー・アリディのライバル。人気争いで常に二位に甘んじたアイドル「クロ・クロ」の誕生から死までを丁寧に、だが、エキセントリックに描いた大作『最後のマイ・ウェイ』はぜひ語りたい。

歌い手といえば自分の音痴を知らぬまま、カーネギーホールを満員にしてしまい、今でもyoutube上ではカーネギーホールのアーカイブの最高視聴者数を誇るフローレンス・ジェンキンスがいる。
『マダム・フローレンス 夢見るふたり』おかしくも哀しい実話で、同じ原作本から全く同じ物語を描いて先に公開してしまったのがフランス映画『偉大なるマルグリット』。
さて、どちらを語ろうか、まだ、決めかねている。
炭鉱夫の娘からカントリー歌手として大成功した女性ロレッタ・リンを描いた『歌え!ロレッタ、愛のために』。
ジークフェルド・フォーリーズの看板スターファニー・ブライスを描いた『ファニー・ガール』
何人かのスター達が全員ボブ・ディランに扮しケイト・ブランシェットがアカデミー賞に輝いた『アイム・ノット・ゼア』
雑誌『プレイボーイ』を創刊したフュー・ヘフナーは女達に愛されつつ亡くなったのに、後追いで『ハスラー』誌を創刊したラリー・フリントは市民に嫌われ、射撃され、下半身不随になった。ポルノ雑誌に命を賭けた曲者編集長の執念を描く『ラリー・フリント』も傑作。
映画界の大音楽家にしてゲイの作曲家コール・ポーターをゲイと知りつつ「ふたりだけの愛情生活が築けるはず」と寄り添った妻を描いた『五線譜のラブレター』。
『マック・ザ・ナイフ』(日本語題名「匕首マッキー」)の大ヒットで知られるボビー・ダーリンの生涯を俳優ケビン・スペイシーが監督・主演して見せたミュージカル『ビヨンド・ザ・シー 夢見るように歌えば』
黒人初のメジャー・リーガー、ジャッキー・ロビンソンの苦闘とそれを支えた監督を描いた『42』。本人が生存中に本人主演でつくられた『ジャッキー・ロビンソン物語』。
ちなみに「42」はメジャー・リーグ全チームで永久欠番。
野球なら球聖ベーブ・ルースを描いた『夢を生きた男 ベーブ』。
ゲーリック病の名の元となったルー・ゲーリック選手をケーリー・グラントが紳士に演じた『打撃王』も捨てがたい。

しかし、スポーツ選手ならモハメッド・アリか。ウィル・スミスが好演する『アリ』。
アカデミー賞ドキュメンタリー賞を獲得した『アリ かけがえのない日々』もある。

さて、今年のアカデミー賞女優部門を制したフランシス・マクドーマンドの演説に多くの女優達が賛同し拍手した。
アメリカ映画には女性がいない。映画の中にも、スタッフにも、と。
しかし、その問題をすでに2002年に女優のロザンナ・アークエットがドキュメントとして仕上げている。『デブラ・ウィンガーを探して』。
デブラは『愛と青春の旅立ち』のころ、絶好調。アカデミー賞に最も近い女優と言われたが、突然、仕事がなくなり、スクリーンから消えた。
40代の女優にはなぜ、役がないのか?
ロザンナはテレビや映画で活躍する女優仲間数十人にインタビューを試みる。
「なぜ?」「何故ポーラ・プランティスは消えなきゃならないの?」

これはハリウッドがずっと抱えている問題。
美人女優としてオスカーも獲得し、ペプシ・コーラの副社長でもあったジョーン・クロフォードは余りに仕事がないので自分に合った役を探す内、『何がジェーンに起こったか』という原作に辿り着く。
これをヒットに結びつけるには美人の老婆だけではダメ。演技派の名女優ベティ・デイビスが必要だわ。
この映画は目論見通り大ヒットしたが盛りを過ぎた婆あ女優を待っていたのは「ホラー女優」の肩書きだけだった。
しかも、アカデミー賞の候補になったのはベティ・デイビスだった。
舞台出のベティ。酒場上がりのジョーン。
実力と美貌を持った大女優の壊れた私生活をフェイ・ダナウェイが見事に演じきり、しかし、ゴールデン・ラズベリー賞(最低女優賞)しか授賞しなかった『愛と憎しみの伝説』。
あと5日でドレを語るか決めなくちゃ。

さて、こんなこと今頃言ってるのはお客さんの数が少ないからなんです。
時間と精神的余裕がありましたら、是非ともおいで下さいな。

日時 2018年3月25日(日) 13時30分~15時30分   (受付は13時より)
会場 日暮里プロモボックス!
   http://promo-box.jp/map.html
  (日暮里駅東口駅前)
料金 1500円
定員 40名
企画・主催 K+(担当 津布久)

*映画の上映はございません。
お申し込みは kazesan713@gmail.com までメールにて、お名前、ご連絡先、電話番号をご記入のうえお申し込みください。折り返しご連絡差し上げます。






2018年3月18日日曜日

3/17(土) ザムザ阿佐ヶ谷 月蝕歌劇団『男の星座』

月蝕歌劇団『一騎人生劇場 男の星座』
於:ザムザ阿佐ヶ谷

『少年サンデー』や『少年マガジン』を貪るように読んでいた時期があった。『ガロ』や、間もなく刊行され始めた『スピリッツ』の購入期とも重なっている。
27歳から40歳頃の10数年間で1972年から84年頃までの間か?
ラジオの台本書きからDJとして仕事をしていた頃で、マンガ誌、特に少年誌を読んでいないと聴き手の話題について行けなかった。
でも、そのおかげでマンガのラジオドラマ化の際、声優の真似事までさせてもらい、楽しい想い出になっている。
当時、少年マンガ誌のスター作家は千葉てつやさん、水島新司さんなど綺羅星のごとくいたが、一番のスターは原作担当の梶原一騎(『あしたのジョー』は高森朝雄名義)さんだった。

今回、月蝕歌劇団は未完の遺作となった梶原一騎原作『男の星座』(劇画・原田久仁信)を舞台化。常より男優の数が多いのでかなり男臭い、それでいながらどこか抒情と官能の漂う素敵な作品に仕上がっていて飽きさせない。
ショー的要素もいつもより少な目だが、梶一太少年が梶原一騎という名で少年誌の花形原作者として確固たる地位を築くまでの半生がダイジェスト的に一気に語られる。
ダイジェストでありながら無頼の日々の純愛から漂ってくる情感はフランス映画みたいで、上演時間2時間20分があっという間。
梶原一騎の生き方と彼を取り巻く人模様に魅了される。
プロレスラーの力道山、木村政彦、ナレーターとしての梶原一騎こそ男優が演じているが青年時代までの梶一太(梶原一騎)、大山倍達、夭逝の天才空手家・春山章、大物ホステスなど主要な役どころはいつもの通り女優陣が大健闘。鉄人ルー・テー・ズに至ってはなんと大山倍達さんの実娘、グレース恵喜さんが演じている。
細かいエピソードに妙にリアリティがあるのは月蝕歌劇団の主宰者で脚本・演出の高取英さんは90年代中頃、梶原一騎再評価のきっかけを作った『梶原一騎を読む』の著者なんだよね♪

昼の部が終わったあと、演出の高取さんを囲んで梶原さんの息子さんである高森城さん夫妻と、『紅い花』や『ねじ式』で知られる漫画家つげ義春さんの息子さんの柘植正助さん、マス大山の娘さんグレースさん、(イヤー、ある世代にとっては大スターのご子息ご令嬢、すなわち二世がひとつのテーブルにいる、という凄い図なんだワ)、そして後から合流の主演女優Mayulaさん(梶一太を好演)とお茶をいただいた。
勿論、とても美味しかったよ。
実は元妻の同級生が梶原先生の担当で、僕の新婚当時、そのI君は我が家によく遊びに来てくれた。
ある時期から突然、連絡が途絶えて、もう40年も音沙汰がないのだが、城さんも連絡とれないんですよ、ご存命かなあ、と心配されていた。
もし、これを目にするようなことがあったらI君、一報頂戴ね。

ちなみに我らが大久保千代太夫さんは今回ナレーターとしての梶原一騎役に比重が置かれていていつもの怪優ぶりはやや抑え目。
でも、しっかり目立ってた。

『男の星座』は本日13:30と18:30の回を残すのみ。
3/20(火)~22(木)は『女神ワルキューレ海底行-聖ミカエラ学園漂流記・原点-』の上演となる。

ザムザ阿佐ヶ谷は外観が美しいとってもいい小屋。