『ミス・ポター』 Miss Potter('06)
監督:クリス・ヌーナン
出演:レネー・ゼルウィッガー/イーワン・マグレガー
「『ピーターラビット』の生みの親、ビアトリクス・ポターの半生を描く感動のトゥルー・ストーリー」
という惹句で売った映画だが、不思議だな、山場というものがまるでない「映画としてこれでイイのかよ」という作品なんだ。
だけど答えは「これでイイのだ」なんだよな。
映画はミス・ポターが出版社に「ピーターラビット」の絵を見せているシーンから始まる。
出版社としてはまるで興味がないんだけど、経営者兄弟は出版を決める。
それは彼らの末の弟が自分にも出版の仕事をさせろ、と言っているからだ。
売れない作品を弟に与えて早々に失敗させ、体よく自分たちの仕事場から追い出そうという魂胆だ。
というのも、弟は嫁のもらい手がない姉と二人で母親の相手をして日を過ごしている。
弟はこんな環境から抜け出したいともがいているのだが、兄たちは母親の面倒見を彼らに押しつけておきたいのだ。
ミス・ポターも意に染まぬ結婚相手を押しつけられて、イギリスの階級社会の中でもがいていた。
成金貴族の娘に来る縁談の相手なんて、どこかおバカな男しかいないことを彼女は知っている。
嫁に行かずに女が一人で生きて行く方法はないのか?
好きな絵を描いて生きては行けないのか?
作者と編集者。こうして二人の魂は静かに寄り添い始める。
なんか、悪くないんだよね、テイストが。
心にすんなり落ちてくるんだ。
劇的な緊張感が全然ないので、その内ダレると思っていたのに、どういうわけだか、アクビひとつせずに面白く見終えてしまった。
昔だったら、途中で怒り出しちゃったろうな、こんな静かな話。
激情を露わにしない全体の作りにきっと腹が立ったに違いない。
もう少し泣き叫んだらどうよ、とも思うのだが、それは「ピーターラビット」の作者の世界観には似合わないんだよね。
最愛の恋人は静かに死に、死に顔さえ映らない。
そして静かに次の恋人が現れる。
最愛の恋人の姉と魂が呼応し合うシーンも静かで良い。
男の求愛を受け入れるシーンも良い。
全編が清潔な作りで、恋愛映画につきものの性的な匂いがキレイさっぱり取り払われている。
なんか見事というしかなくて、静謐な気品まで漂ってくる。
この静けさに文句を言おうものなら「こういう映画は高潔な心の持ち主にしか解らないのよ!」と怒られそうな感じさえする。
その意味ではちょっと敷居が高い感じがしないでもないのだが、見終えた感じは「マッ、いいか」なんだよね。
イギリスの雲の重たい空はなんか好きになれないんだけど、この映画は割合空の高い好天の日に撮影されていて、イギリス湖水地方の緑したたる風景が堪能できる。
イーワン・マグレガーはいつもながら歌のシーンが良い。
この映画には歌が2曲しか登場しなくて、それも作品全体を静かなものにしてるんだけど、たった2曲の歌の1曲が『ダンスを教えて』で、最後のクレジットに被って流れるのが『あなたがダンスを教えてくれた時』なのがなかなかイイ趣向だ。
『ピーターラビット』についてはよく知らないけど、絵のファンと僕のようなジジババ領域に踏み込んだ年齢の者には飽きずに見られるんじゃないかな。
6 件のコメント:
一番~~~!
この映画、見ようと思いながら
スルズル。
景色だけでも見たいピーターラビットの世界なんですけど。
ううう、またもや長い文字確認(泣)
ああ、この映画、hecoちゃん同様観たいな、と思いながら未だ・・・です。
イギリスはあまり興味のない国ですが、ポターの湖水地方とシェイクスピアのストラットフォードだけは行ってみたいところです。
で、ポターと日本の画家のいわさきちひろさんのえ?という偶然にびっくりしました。
意に染まない結婚、ちひろさんの最初の結婚がそうでした。
お二人の描く絵はそういうさまざまな思いを内に包んで穏やかで、だからこそ人の心にすーっと入ってくるのでしょうね・・・
♪hecoちゃん~成功おめでと~!
待ってたわよん~!
♪むっちゃん
なんというのかどーでもよい知識だけはあるんだわ、私~!
ちょっとお役にたって嬉しかった~
遅ればせながら
新装開店おめでとうございます。
気持ちの良い晴れ間がやっと見えてほっとします。
レネー・ゼルウィンガーが素敵です。
『ブリジットジョーンズの日記』や『コールドマウンテン』のどちらとも違うタイプの
強い女性を演じていました。
自分にとって何が大切かを知ってて
大ヒットしたピーターラビットの著作料で
故郷の田園風景を買い、保存して
絵を描きながら静かに生活するポター。
ナショナルトラストの先駆者なのに
そんな気負ったところがなく穏やか。
ああいう風な生活にもちょっと憧れたり…
>絵のファンと僕のようなジジババ領域に踏み込んだ年齢の者には飽きずに見られるんじゃないかな。
はい、楽しく見られました。
かぜさんの映画批評ってほんとにいつも
わかりやすく的確でストーリーも過不足なく雰囲気を伝え、ばらし過ぎず、すごいです。
「そうそう!もうそのとおりっ!」って感じです。
ネットレンタルの参考にいつもさせてもらってます。m(__)m
ポターさんの世界は上流社会なので、きっと超・お上品な映画だと思って今まで少し遠巻き?に見てました(笑)。
でも、かぜさんの解説とアプリさんのコメントを読んで、ちょっと身を乗り出してます。
映画の中で絵のピーターが動き出すシーンもあるんですよね。やっぱり見たい!!
それに「本日の店主」のロッホ・ローモンドというタイトルに大いに反応している私です。この辺りの民謡・伝承歌にカブレてます・・。
hecoさん、待ってました~(^o^)丿
文字認証でいっしょに脳トレしましょう!
私も見ました!!それもシアターで!!
去年の9月頃でしょうか?
最近のシアターの回転の早いこと、
早いこと、1ヶ月で終えるなんて
あたりまえのような感じ、というのも
次から次へと続々、新作の上映の目白押し。
ところでこの映画サラリとして
あまり心に残らない気がしないことはないけどイギリスのカントリー気持ちが和みますね。今年の2月だったか「ウオーターホース」これもネッシーになぞえてそれなりにでした。
私も
アプリコットさん、hecoさん同様、
観たいな、と思いつつ。。。
絵のファンでなおかつ、ババの領域に
なりつつあるので、大丈夫かも。
湖水地方のポターの農場には行ってみたいですよねー。
ところで、
このコメントを投稿しようとして
悪戦苦闘。何度もエラー。
昨日は断念してしまいました。
今日はすんなり、って、いったい。。。
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