FOX-TV『アメリカン・アイドル』第5シーズン(2006年)のファイナリストの一人だったバッキー・コビントンBucky Covington(写真・右)の歌。
アメリカの平和な金曜日の、ごくごく日常的な風景を綴った軽快なナンバーだ。
さて、気がついたらCDの棚にテレビ『アメリカン・アイドル』の歴代ファイナリスト達のCDが溜まっていた。今日はそれをまとめて紹介させて下さい。
さて、バッキー・コビントンははたしかノース・カロライナ辺りの出身で、番組の中では田舎者の扱い。「オラの町ではヨォ」といった感じに翻訳されていた。
喋り方は口跡が悪いと思ったが性格の良さ気な青年で、僕は応援していたが、ファイナルに入ると割と早い段階で消えた。
そのバッキーのファースト・アルバムが昨年暮れに出た『bucky covington』(Lebel:Lyric Street)で、カントリー・チャートでは1位になった。 シングルカットされた『I'll Waik』も同チャートの6位になっている。
全体にカントリー・ファンには好まれる仕上がりだと思うが、僕の耳に残るとは言い難かった。ただ、好感の持てる仕上がりなのでどこか捨てがたいのも事実なのだが…。
同じく第5シーズンのファイナリストでバッキーの翌週に脱落した記憶のあるのがエース・ヤングAce Young(写真・左)だ。
ファースト・アルバムは昨年夏の『Ace Young』(DESTON/FONTANA)でビルボード160位。このアルバムに含まれていないシングル『Out Here Grindin』がHipHopのAir Playで5位を獲得している。
エースも田舎町の出身だがご覧の通り、く美形の、それも双子の弟なので売り方次第では面白い存在になると思ったが、クィーンのボーカルに嫌われてまともなレッスンが受けられず、脱落した。
エースは編曲しすぎて嫌われたのだが、同じく翌シーズン、自分の名曲『禁じられた愛』をブレイク・ルイスに編曲され過ぎたためにイヤな顔をしながらも熱心にレッスンしてくれたボン・ジョヴィは器が大きいと思ったね。
エースのこのデビュー・アルバムはどこかヘソのない感じの曲が並んでいる。
もう少し聞き込んでみないと僕には良いところが発見できないかもしれない。
クリス・ドートリー(改めドートリー DAUGHTRY 写真・右)はエースが落ちた週に、逆にクイーンのボーカルに大絶賛された。
第5シーズン第4位のロック歌手で、5人組のバンド「ドートリー」として出したデビュー・アルバムは2007年度、アメリカで450万枚を売る大ヒットとなって、グラミーの最優秀ロックアルバム賞の候補にもなった。
ひと声発した瞬間に「ウメェ!」と舌を巻くアマチュアで、番組に出てきたときはまだ田舎町の電気店かなんかのカスタマー・サービスの仕事をしていた。
子持ちの女性と結婚して歌い手の夢は諦めかけていたのだが、その健気な女房の後押しで意を決して応募した。
オーディションでひと声出した時、「お、早くも優勝戦への進出者が見つかっちゃったね」とテレビの前の誰もが思ったと思う。
それくらい力量は圧倒的で当然、すんなりと勝ち上がったのだが、なぜか4位に沈んだ。
視聴者の気まぐれで4位になってしまったその瞬間、本人も審査員も、視聴者の多くも、その結果が受け入れられなかったと思う。
納得行かぬ思いをぶつけたデビュー・アルバムは『HOME』という名曲の入った『DAUGHTRY』(Label:RCA)に結実して、アルバム・チャートの1位を獲得。
現在91 週経った今もHot200にインしている。このアルバムは聴く人の脳天を直撃してくる、間違いなく名盤なのだが、僕の携帯プレーヤーからは最近姿を消した。
力の入った歌唱なので、持って歩くにはちょっと疲れるのだ。
ドートリーが4位に沈んだとき、3位の座を争ったのがエリオット・ヤミン Elliott Yamin(写真・左)だ。
ヤミンは毎週、ワーストに名を連ねて、やっと勝ち進んでいる状態だったが、何故か不思議な底力が感じられた。
若年性糖尿病を患う身だったが、優しげな言動に視聴者は肩入れした。
このシーズンの1位テイラー・ヒックスと2位のキャサリン・マクフィーは間違いナシの実力者だったが、僕には心を寄せられる材料がなかった。この二人と競わされたらヤミンは3位でしかあり得ず、結果もその通りになって、ヤミンはそのまま忘れられたかに見えた。
事実、音楽業界から彼に食指がのびた形跡はなく、彼はインディーズ・レーベルHickory Recordsからアルバム『ELLIOTT YAMIN』でひっそりとデビューしていた。
ところがそのアルバムを待っていたファンは(僕も含めて)確実にいたのですね。
このデビュー・アルバムは2007年度のインディーズ・アルバム第1位を獲得。ビルボードHOT 200でも3位に入ると、シングルカットされた『Wait for You』も第5 位にチャート・イン。
日本でもヒットの兆しを見せ始めて、日本語のカバー・バージョンも発売された。
歌ったのはなんと紅白初出場を果たした会社員歌手・木山裕策さん。悪性腫瘍に打ち勝って紅白に出た歌手だというのは大晦日の『紅白』で初めて知ったのだけど、カバーを出したのが彼なのは知っていた。
たしかに日本語にしたくなる曲なのですよね。木山さんなら尚更、の思いがあるかもしれない。
実は僕は、このデビュー・アルバムには最初、さしたる興味をそそられなかったのだけど、去年一年、携帯プレイヤーで聞き続けていたら、全体にとても良い仕上がりなのですね。
特に一曲目の『MOVIN' ON』の入りが軽快でなんだか心地よく、『Wait for You』『One Word』『You are the One』という流れで確実にこの人の世界が出来ていることが解る。
スキャットが安易に使われている曲があって、そこがちょっと安いのだが、聞き込んで行く内に手放せない一枚になってしまい、本選同様、僕の携帯プレイヤーの中でもヤミンがドートリーに取って代わってしまったという訳だ。
彼のインディーズ人気を無視できなくなった『アメリカン・アイドル』は2008年のチャリティ・ウィークの際、彼をアフリカに送った。
彼には格別なタレント性は備わっていないので、アフリカ・レポートにも期待できなかったのだけど、彼が訪れたある村で、その朝一人の子供が生まれた。
母親はその日、アメリカから人気歌手が来るというので記念に子供を「エリオット」と名付けてしまった。ヤミンはそれを聞いた途端、感動して涙を流してしまったのだが、圧倒的な力量もルックスも、タレント性にも恵まれていない彼が極めて優れているのはその人間的な優しさなのだと気づかされる一瞬だった。
つまり、彼の歌には人間に対する愛情がきめ細やかに歌い込まれている。
人の心の柔らかな部分にそっと触れてきて、優しい気分にさせてくれる。
すぐに飛びつける華やかさはないのだけれど、じんわりと心に染みてくるなんだかイイ感じの歌い手なんだ。
彼の歌といつも一緒に持ち歩いていたのが『アメリカン・アイドル』第6シーズン(2007年)の覇者ジョーダン・スパークスとわがブレイク・ルイスのデビュー・アルバムだ。
ジョーダン・スパークスJordin Sparks(写真・左)は本選を戦っている最中にめきめき上手くなった17歳で、なんだか良いところまで行きそう、とは思っていたが、力量的には3位が妥当だと僕には思えた。
ところが最後の最後で大ドンデン。
そのいきさつ予測は放送当時に書いたが、デビュー・アルバム『Jordin Sparks』(Label:JIVE)は彼女の若さと上手さが見事にミックスした上質な一枚となった。
デビュー・シングル『No Air』はビルボード58位止まりだったが、次の『Tattoo』を6位とした頃、『No Air』をデュエットしたクリス・ブラウンが大売れし始めて、それにつられてデビュー曲がまた動き出し、最高位2位まで上昇。確実に流れをモノにした。
3作目の『This is My Now』はファイナル用に番組が公募した際の優勝曲だったが、ファイナリストのジョーダンとブレイクにはこれが決定的な勝敗の分かれ目となった。
その想い出の曲を16位とし、デビュー・アルバムから4枚目のシング・カットとなった『One Step At a Time』も 5位。堂々たるウィナーぶりだ。
アルバムも10位まで上げてロングセラーとなったが、一年聞き込んでも飽きの来ない魅力に改めて驚いている。
春、舞い落ちる花びらがいつまでも素肌に軽やかにまとわりついている感じの、伸びやかな官能ボイスも心地よい。
1年丸々聞き続けて今なお飽きないのが第6シーズン準優勝のブレイク・ルイスBlake Lewis(写真・右)だ。
デビュー・アルバム『AUDIO DAY DREAM』(Label:Arista)についてはどなたの耳にもタコができるほど、書き、喋り、したが僕は今日も彼の歌声で一歩を踏み出す。
彼の歌を持って出るとなんだか気分がウキウキして、東京まで仕事に出かけるのも苦痛でない。雑踏の中を踊りながら駆け抜けて行きたくなる。
僕の有酸素運動を促進させて、僕の性格の中の明るい部分を刺激してくれる歌声なのだ。
僕がこのアルバムを可愛がれば可愛がるほど、歌が僕に身をすり寄せてくる。
可愛い雑種犬のようで、とても手放せない。
アルバムはビルボード初登場10位とまずまずで、2曲目のシングル『How Many Words』はダンスチャートの6位。
ここ数年のフィナリストの中ではセールス記録は上々とは言えず、次作アルバムのニュースも見あたらないが、誰が何を言っても気にはならぬ。
僕はこの青年の個性が丸ごと好きだ。
『アメリカン・アイドル』第6シーズンのハリウッド予選の時、ブレイクとグループを組んだのがクリス・スライChris Sligh(写真・右)だ。
当時、僕が「マシュマロ・マンみたいなヤツ」と呼んでいたのが彼で、審査員の評価は非常に高く、番組も最初は「クリスのグルーブ」と呼んでいたほど、彼に肩入れしていた。
ところがそれ以上には面白いキャラにならず、ファイナルに入るとかなり早い段階で姿を消すことになった。
デビュー・アルバムは『CHRIS SLIGH/ RUNNING BACK TO YOU』(Label:brash)。
相変わらず上手いと思うが、なんか、それ以上ではない。
アルバムはビルボード200でランク190位。
もう少し聞き続けてみようとは思うが、僕にはまだ彼の魅力が見つけられないでいる。
第6シーズンには気に入ったキャラが何人かいたが、歌よりもその役者顔、ハッキリ言えば変質者顔が気に入ったのはフィル・ステイシーPhil Stacey(写真・左)だった。
なんだか一度見ると、しばらく見ていたい顔なのだ。吸引力のあるルックスをしている。
彼にも物語があって、オーディション当時は米軍海兵隊員。
オーディション当日が妻の出産予定日と重なってしまい、気が気でない風情で登場したが、合格を果たした。
順当に勝ち上がったが、僕は歌い手としては彼の中に突出した才能はついに見つけることが出来なかった。
ただ、課題がカントリー・ソングだった時に、それまで聞かせなかった非常に生き生きとした情感を歌に籠め、この人にはカントリー・シーンが似合うことを印象づけた。
案の定、デビューアルバム『Phil Stacey』はバッキーと同じ、カントリー・レーベルのLyric Streetからの発売となった。
ビルボード200では43位。カントリーチャートでは8位。シングル『If You Didn't Love Me』はカントリー・シングル28位。悪い出来ではないが、僕を夢中にはさせてくれない。
なんだろう? ルックスに比べて歌の彩りが淡すぎる、という感じか?
昨年放送の第7シーズンのファイナリスト、デヴィッド・クックDavid Cook(写真・左)と天才少年デヴィッド・アーチュレタDavid Archuleta(写真・右)のデビュー・アルバムも昨年12月、相次いで発売になった。
クックのアルバム『DAVID COOK』(RCA)はビルボード2位、シングル『Light On』は8位。
番組の最終回で歌った『The Time of My Life』はダウンロードだけでHOT 100の3位になったが、このアルバムにもボーナス・トラックとして収録されている。
アーチュレタのアルバム『DAVID ARCHULETA』(JIVE)はビルボード2位、シングル『Crush』も2位を獲得している。
この2枚は暮れに手に入れたばかりなのでまだ聞き込んでいないが、曲として耳に残るのはアーチュレタの『クラッシュ』だ。
メロディにもちょっと面白い要素があって、なんかせっつく感じの追っかけ唱法にちょっとそそられるものがある。
全体によく仕上がっていて、天才少年と呼ばれるゆえんはすぐに解るのだが、やはり17歳。
表現方法にまだまだ研究の余地があって喰い足り無さもある。
でも、ジョナス・ブラザースみたいなポップなナンバーを歌わせたら、断然上手いと思うがなぁ。
まあ、バラードが歌える歌手として「将来に期待」とか、この時点で僕が言っても、彼のCDが出る度にずーっと買い続けてあげるかどうかは保証し切れないしなぁ。
クックは上手いと思う。アルバムもこれ一枚を聴くだけなら良い出来と太鼓判が押せる。
ただ、ドートリーとヤミンを聞いた耳には格別な新しさは感じられない。
聞き込んでいないので、新しさ以上の別の魅力もまだ僕にはまだ見つかっていない。
これもまたしばらく聞いてみなければなるまい。
ちなみに第6シーズンで惜しくも3位となったメリンダ・トゥーリットルのアルバムは来月6日に発売予定らしい。
オーディション史上最高の歌声と評されたあの極上の声でどんなアルバムが出来上がったのか、今から楽しみだ。
それに来月末頃には第8シーズンが始まるのじゃないだろうか。
待ち遠しくてならないこの頃である。
閑話休題:
偶然にも夕べ放送の人気ドラマ『BONES』第3シーズンの#14は『アメリカン・アイドル殺人事件』。
なんとハンサムなジムのトレーナーで歌い手志望のトミー・サワーという男の役をエース・ヤングが演じていた。
台詞もあって、歌もハーフ分くらい聴かせるが冒頭で殺されてしまった。
おまけに同じカラオケ・パブの常連客で「ブロードウェイを夢見る男」役が第6シーズンのファイナリストで、バック・コーラスを職業としていたブランドン・ロジャース。
彼も早い段階で脱落したので、ドラマ的には役が軽く、歌以外の出番はナシだった。