2012年1月20日金曜日

疑惑Blake


最近、ヤツの挙動が不審だ。
僕が1階で炊事などしている時、ソッとリビングから消えている。
戸が薄~く開いているので近くまで行くと慌てて2階の階段を駆け下りてくる。
僕のいない仕事場で一体何を嗅ぎ回ってるのだろう?

そう言えば僕がいないと思って仕事場に入って来る時もあって、僕に気づいてハッとして(文字通りハッした顔をする)急いで部屋から駆け出して行く。
戸は開けるだけで閉めることは出来ないからその都度、戸を閉めに立ち上がらなければならず、なかなか厄介だ。

さらに、僕がトイレに行くためソファを離れるとどうやらソファーにも乗っている気配がある。
大抵は僕が部屋に戻るまでに降りているようなのだが、この頃は図太くなってきて、平気で乗ったままでいる。
「オイ、降りろ」と命令すると不満そうに降りる。
道理でスウェットパンツに思わぬ量の毛が付いてたりしたはずだ。
僕がいない間、ソファを温めておきましたゼ、というほど健気な感じはない。
明らかに僕の目を盗んで行動してると思う。

そう言えば最近は散歩を公然と要求するようになり、自分が外に出たい午後2時半頃になるとかなり威張った声で吠える。
有無を言わせない強い意志の見える吠え方なので僕はその無理を聞く。
本当は彼の思い通りに動いてはいけないのだと思うがコレまで彼は上手に意志を伝えられなかったので、コレは伝わった、と彼自身が認識出来るように僕の方から歩み寄っている。
伝わっていると判れば、彼はもっと上手に色んな意志を伝えようと工夫するのではないかと思うのだ。

イヤ、カリスマ・ドッグ・トレーナーのシーザー・ミランには怒られるだろうと思いますよ。
判ってるんだけど老い先短い道中の友なのでイイよ、別にワガママに育っちゃったって。
ジイちゃんバアちゃんが孫を甘やかしてしまう気持ちがよおく判る昨今だね。
多分、家の中での不審な行動もついに僕を手なづけたと思っている彼の増長の表れなのかもしれない。
やがて手に負えなくなるぞ、という思いもないではないのだけど、バカ犬Blakeを見てみたい気も…。

そのバカ犬が招いた事件。
正月早々、朝飯中の僕に一つの苦情が届いた。どこかのお母さんからです。
「道を歩いていると毎日お宅の家に吠えられて生きた心地がしないのよ!」
ウーン、毎日は庭にいないんですけどね、とは言えなかった。

たしかにBlakeは吠える。
着飾った人と化粧をした人には特に…。
あとは僕の家すれすれの塀沿いに歩く人に吠えている。
吠えているのに気づいた時は必ず叱っているのでその方のお顔を存じ上げていても良いはずなのだが、全く初めてお会いする方だった。

塀から外が見えるところは勝手口の格子状になってる1m弱の扉のところなんだけど、ここを通った時にワワワワワンとやるので吃驚される方はおられる。
なので困った。

道は公道なのでこんなことを言えた義理ではないのだが、「申し訳ありませんが一度、道のあちら側を歩いてみて貰えますか?」とお願いした。
門から2m位は離れることになるので吠えないかもしれないと思ったのだ。
というのもお母さんはこの辺のお年寄りには珍しくきれいに化粧し、モダンな洋装をされている。
その方が塀すれすれに歩いて来たら吠えないはずがないのだ。
門から少し離れた所を通ったら吠えなかった、ということになったら申し訳ないけどこれからいつもそうして貰えるかもしれないな、と淡い期待をしたのだ。

「ウウン、吠えられるまで犬がいることに気づかないんだから最初からよけては通れないのよ」
「ウーン、ウチのはご近所から番犬の役をしてない犬だね、と言われるくらい吠えない犬なんですけどねぇ」
「愛犬家ってウチのだけは吠えないと思ってるのよねぇ」

「死ぬほど怖く」てもよけてはあるいてくれないのかぁ、と手前勝手なことを思ったが勿論言えない。

「とにかく犬がいるっていう看板立てといてくれないと」

ウチのは外にはあまりいない。
夏と冬は大半家の中で暮らしている。
同じ人が「毎日吠えられる」ということは基本、ナイのだが、ホントに悪い巡り合わせで珍しく外に出てる時どういう訳だかその方が行き帰りするのだとするとコレはもう僕には想定外の出来事なのだ。

近頃、我が家は犬小屋みたいな匂いになっている、と思う。判らない、慣れちゃったから。
そう、愛犬家はかように自分が見えなくなる。どんなにヨソ様に迷惑をかけているかに気づかなくなる。

勿論、そのお母さんに暴言を吐く気はないので早速紅白の旗を買ってきてフェンスにくくりつけた。
「犬がいます 吠えます すみません」
と書いた。
逆に近所の人の関心を集めてしまって旗の事情をしょっちゅう説明しなければならなくなった。
みんなが気づいてしまった旗。
あのお母さんもこの旗に気づいてくだすったろうか?
どちらにせよ、ご迷惑おかけして誠に申し訳ありません。