2017年11月19日日曜日

月蝕歌劇団『ねじ式・紅い花』

月蝕歌劇団『ねじ式・紅い花』(学芸大学・千本桜ホール ~21日まで)

「アングラの宝塚」の異名で知られる月蝕歌劇団を観るのも、これで3度目。
女性が男性を演じることにもうほとんど抵抗はなくなった。
と言うか、ここの女優が演じる男はどこかチャーミング。
って、おいおい、まだ3度しか見てなかったのかよ、と言われそうなのだが、この劇団の主宰者・高取英さんとは30年以上も前から知り合いだ。
80年をちょっと過ぎた頃だったか、高取さんの芝居に必要な安達明の『女学生』(1964年の大ヒット曲)の音源を調達をした、というのが始まりで、その活動は常々気になっていたのだが、何故か見る機会を逸していた。
その存在を忘れていた時期もあったかも知れない。
特に84年からテレビの仕事を始めてしまったものだから2003年まではまともに映画にもライヴにも行っていない。芝居や音楽関係の友人知人には不義理を重ねた。
何とか頑張って、友達の喰始が主宰するワハハ本舗につきあっていた程度だ。
2003年、この業界に入ってまもなく関わることになったNHK『ステージ101』の出演者たちが復活コンサートをやるというので、その手伝いに呼ばれ、そこからコンサートや芝居にまた通うことになった。
テレビを離れて、ラジオに戻ったことも大きかったかも知れない。
劇的に変わったのはFBを始めた2013年からだ。
ほぼ同時期にギランバレー症候群なる厄介な原因不明の病気になった。5ヵ月も入院し、退院してもずっとベッド生活。出来ることが少ないのでこまめにFBを操る内、予想もしなかった新しい友達が増え、旧交を温める機会にも恵まれることになった。
高取さんもそのお一人で、僕はやっと月蝕歌劇団に辿り着くことになった。

今回も誘っていただいて伺うことになったのだが、『ねじ式』も『紅い花』も単行本を持っていたほどだから、幕が上がっての一言めからスッポリその世界に入り込んでしまった。
台詞の一言一言がつげ義春の世界なので懐かしくてたまらない。
ところが、オヤオヤ、舞台は途中から時代劇に変わって行く。
その時代劇のさなかにまたまた『ねじ式』と『紅い花』に巻き戻されて…と、いくつかのつげ漫画の台詞が上手くコラージュされて、やがてひとつの物語が姿を顕す。
高取さんによれば5つのつげ作品が使われているらしいのだが、とにかく巧みに仕掛けられた世界に気持ち良く酔って行く。

つげ義春さんの時代があった。ちょうどラジオで喋っていた頃だと思う。
その前に林静一さんのブームがあったような気がする。
初めてのシングル『モカの香り』(歌・鹿内タカシ)の3節を林さんが漫画に使ってくれたのですごく嬉しかった。
以来、『ガロ』を定期講読するようになって、つげ義春という作家も知ることになったのだと思う。
1969年のことだった。

余談だが、それから3年経った頃、その話をある番組で林さんの信奉者あがた森魚にしたら「そんなはずないよ!林さんはかぜさんの詞なんか使ってないよ!」とヒステリックなほど言下に否定された。まだ、タイトルも歌い手の名も言ってない内だったのに…。
さては、林静一さんはあがた森魚だったのか(笑)。

とまあ、コラージュの話からあがた君まで思い出してしまう酔い方だった。

懐かしいと言えば、今回の作品にはいつもより男優が多く、年嵩の役には豪華ゲストがキャスティングされている。
これが100本目の公演であることが豪華ゲスト登場の理由だが、なんと、元「状況劇場」の大久保鷹さん、伝説の映画監督・足立正生さん、映画評論家・松田政男さん、「発見の会」を創ったベテラン俳優・牧口元美さんといった布陣。
ちなみに女優陣も年嵩の役にはいずれも大ベテランの宍倉暁子さん、伊藤清美さん、高橋咲さん、里見瑤子さんなど知る人ぞ知るベテランの名が並んでいる。
18日のみの歌い手ゲストは阿久悠さんの歌ばかり集めたアルバムで知られる渚ようこさん。

ご本家・大久保鷹さんの出演で、僕らの顔なじみ「新大久保鷹」さんは、今回「大久保千代太夫」と改名した。
足立正生さんの1963年作品『鎖陰』を僕は床が抜けそうな日大芸術学部の講堂で見た。「学生が作ったピンク映画」としてすぐに週刊誌が特集した問題作だった。
向島の花街そばで育ってスレッカラシだったはずなのに、この映画にはひどく衝撃を受けた。と言うより、「俺、今、なんかイケないものを見てる?」という感じで、周りを見回した覚えがある。
ボロ講堂は翌々年新築された。
その頃になるとピンク映画も日常的に上映されていて、僕自身が何度も学内でピンク映画への出演を誘われたりしたので、うぶな季節は瞬く間に過ぎてしまった。
松田政男さんの創った雑誌『映画批評』も覚えているし、牧口元美さんの劇団には知り合いもいた。

そんなわけで「懐かしさ」も若い日のあれやこれやをズルズルと引っ張って来ちゃう変な「懐かしさ」なんだけど、その分、存分に楽しんだ。
展開を詳しく書けないのはネタバレしてしまうため。ぜひ、見て下さい。面白い。
ちなみに明日19日夜のトーク・ゲストは元「演劇団」(現・流山児☆事務所)の流山児祥さん。そう言えば「演劇団」の宣伝担当をしたこともあったなあ。
流山児さんにも、あれ以来、もう34~5年逢ってない。

月蝕歌劇団はいつも2本連続公演なので11/22(水)~24(金)には寺山修司・作『盲人書簡-上海篇-』を上演。構成・演出は高取英。音楽は2本ともJ・A・シーザー。
予約・前売り/4,400円 当日/4,600円。


1 件のコメント:

みん さんのコメント...


かぜさんが関わった為に観に行った、第2次演劇団(「月夜とオルガン」、「碧い彗星の一夜」)の公演からの流れで月蝕歌劇団も観に行ってました。
今でも劇中歌、歌えるよ♪