2008年9月18日木曜日

白いスポーツ・コート

昨日は新宿「プーク」で『喰始のショービジネスの作り方』。
思えば「髭男爵」は何年も前からこの舞台で見ていた。
売れる気配さえなかった頃から、ということになるが、他の芸人集団とはちょっと色合いが違っていたのが、今になればよく判る。

今、この舞台で誰とも違っているのは「コラアゲンはいごうまん」で、昨日のテーマは「新潟刑務所慰問」。
全国ツァーの最中に訪れた新潟で取材も兼ねて刑務所の慰問に出向くことになった話だが、コラアゲン君の伝え方は非常にシンプルで的確になってきた。
「脳性麻痺」コントの実話には笑って泣いた(本当に「脳性麻痺」の人がふたり組コントをやっているのだ)。
終演後、劇場の外にいたら、客が「コラアゲンは上手いねぇ」「上手になったよねぇ。笑った笑った」と満足そうに帰って行った。
彼らもこの催しの常連さんなんだろう。
コラアゲン君の面白さはこの催しでは群を抜いている。
笑いの部分だけでなく泣かせにかかる部分への運びが実にスムーズで、妙なテクニックを感じさせない。客の感情の起伏を巧みに引き出すので、鈍感な人はまだ笑う話なのだと思って笑い続けているのだが、気づくと周りはもう泣いている、というような上手さなのだ。
観察眼に磨きがかかってきて、他人の話や動き方を聞き逃したり見逃したりしていない。

もうひと組「キャラメル・マシーン」という奇術のふたり組がいるのだが、彼らも毎回、客を湧かせている。
手品自体が見事なのもさることながら、助手の青年の、奇術には全く関係のない無駄な芸が、とにかく全部ピタリと決まって、客を飽きさせることがない。
上手い。コンビネーションも抜群で、コラアゲン君とキャラメル・マシーンのふた組だけで十分にお金を払った甲斐がある。

あとは見るだけ聞くだけ時間の無駄、みたいな個性の定まらない人たちが多いのだが、「西口プロレス」の「ジャイアント小馬場」さんと同じグループのオカマ漫才はキャラが確立している。
小馬場さんはちゃんと馬場さんに似ていて、そのくせ、妙にリズム感がよい、という変な人で、ネタさえシッカリしてくればもう少し笑えるかもしれない。
オカマ漫才は小汚くなっていないのがイイ。
ただ、オカマキャラを取っ払った時、面白いのかどうかが今ひとつ解らない。
手慣れているので笑いは十分に取れるのだが、このキャラ作りにはちょっと手垢がつきすぎているかもしれない。

芸の年数だけが売りになってしまった人や、結成から日が経っていないことや若いので許されると考えているような人まで玉石混淆なのだが、コラアゲン君とキャラメル・マシーンはそのどちらでもなく、毎回、新しさを感じさせてくれることにいつも感心している。
彼らは今日18日は仕事で出演しない。
褒めてもその芸を見てもらえないのが残念だが、どこかで見る機会があったら注目してやって下さい。

ちなみに劇団「ミノタケプラン」の『空飛ぶ隣人』は行ってみたら大入りでしたね。
初日、二日目は空席が目立ちます、というメールによる客引きが功を奏したかもしれない。

舞台はいつもの通り上出来で、石井君の世界を満喫。
なめらかな筋運び、こなれた会話にいつも感心するのだが、見る度、僕は舞台でしかできない、舞台でしか見られない物とは何なのか、と考えてしまう。
もしかしたら、その部分の驚きが足りないような気もするのだが、マンションからの宇宙飛行士誕生、その人のためにサプライズ・パーティを企画する住人たち。彼らには5年の理事免除の資格が与えられるという特権。でも、彼らは誰もその宇宙飛行士と顔見知りではない。ただ一人、彼を知る隣人はとんでもなく変わった奥さんで…、という設定の上手さに感心。
よくある日常風景の中で、一人一人の持つドラマが転がり始めるという手法は元々はテレビのモノだが、テレビがあまりに突飛な、あり得ないドラマ作りばかりし始めたので、むしろ新鮮に見えたりするのが妙。

マンションの理事をこの6月に終えたばかりの僕には笑えるツボが満載で驚喜してしまったが、不思議だねぇ、客の大半がクスリともしない。
真面目~ェに見ている。
隣にタータンチェックのスカートを穿いた(コスプレ魔でもない限りは純正の)女子高生がいたが、彼女は最後まで笑い声ひとつたてなかった。
普通は芝居を見ている時、隣の人の反応なんて気にもしないが、あまりに反応がないので段々彼女が気になって仕方がなくなった。
もしかすると彼女たちの「ステージを見に行く行為」ってのは「一発ギャグ」や「一瞬ギャグ」を見に行くということなのかもしれない。
しかし、芝居はコントの連なりではないので彼女たちは戸惑っているのかもしれない、などとも思ってみたのだが、真実はどうなのか?
単純に「面白く」ないのだとしたら、それは芝居を楽しむセンスが欠けているだけのこと。お金の無駄だから見に来ない方がよいと思う。鍛えられないモノだと思うので。

この頃、アクション・コメディの『トランスフォーマー』を大笑いしてみていると席を蹴られたり、おかしいエピソード満載の舞台を全然笑わない客と見ていたり、となんか、世間と僕の感覚には大分開きがあるようなのだ。
まあ、「流行り者」予測はそんなに外してはいないので、センス自体も僕はそんなにズレてはいないと思うのだが、過信か…。
まあ、「相撲」を外したのでちょっと自信はなくなってるが…。

2 件のコメント:

花豆 さんのコメント...

笑って泣くという感じ、何かは思い出せないけど、私にもそんなことあります。ドキュメンタリーを観ている時なんかに。
キャラメル・マシーン、要チェックですね。

いつもかぜさんのいいものを見極める眼力には感心するばかりです。過信じゃないですよ。
強いて言えば、ちょっと早過ぎるのかもしれませんよ。
先日、仏師の松本明慶さんがニュース番組の特集になっていました。
「あ、かぜさんの本!」と気が付いて、観始めたら、洗い物をする手が止まってしまいました。
素晴らしかったです。是非、本も読ませていただきます。

何だか話がそれました。久しぶりに更新されて嬉しいので、つい長くなりました。

LIMIT さんのコメント...

店主さま、おはようございます。また変な天気が続くようになって、私もいまいち気分が晴れ晴れしません。でも『本日の店主』が更新されて、久々に幸せ感に浸ってます~♪

新宿「プーク」って、人形劇のプーク劇場ですね。人形劇ばかりじゃなくて、そういう公演もやってたんだ!!(←視点が違う)人形劇だったら「木馬座」の公演を幼稚園前後の時に、よく見に行きました。藤代清治の影絵と共に思い出します。そういえば、木馬座ってどうしたんだろう…(←話がすぐ脱線する)

かぜさんが、お芝居を楽しむ心得?を書かれてますが、なんとなく『映画は吹替えでしか見ない』人が増えているのと同じようなイメージで、一瞬で理解(『理解』という言葉もなんだかなぁ~ですが)できる瞬間一発ギャグに人気が集中しているのと根源が一緒な気がします。テレビで見るとそういうのばかりだし。笑いの機関銃攻撃?に慣れているというか、笑ったり泣いたりという起伏(『字幕』を読んで画像を見て再確認みたいな)に追いつけないというか…

笑わないお客の存在は、多分『一人で楽しむ』ことに慣れているせいじゃないかと思います。テレビやビデオは今だと個人で見て楽しむ…昔?みたいに家族全員で同じ番組を見てガッハッハと笑うことは、少なくなってきたと思います。人前で大声出して笑うのは、慣れていないのではないかと。そして人前で大声出して笑うと『迷惑をかける』と気遣っているのではないかと…(席を蹴られた所でそういう雰囲気プンプン)声は出さずとも、顔は笑っていませんでしたか?でも、面白かったら笑ってもいいと思うんだけれどなぁ。

なんかすご~~~く長い感想になってしまった気が(^^;